植物には2種のオルガネラ、葉緑体とミトコンドリアが存在し、それぞれ核とは独立したゲノムDNAを持っている。両オルガネラゲノムの遺伝情報システムを解明する第一歩として、代表研究者らによりすでにゼニゴケ葉緑体DNAの全塩基配列が決定され、その解析が進められている。一方、ミトコンドリアDNAについては構造が複雑であるため、その解析は遅れていた。そこで本研究では、植物ミトコンドリアゲノムの全遺伝容量を規定することを第一の目的とし、ゼニゴケミトコンドリアDNAの全一次構造を決定した。その結果、ゼニゴケミトコンドリアDNA(186、608塩基対)中に、全部で96個の遺伝子(3個のリボソームRNA遺伝子、29個のtRNA遺伝子、31個の既知タンパク質遺伝子33個の機能未知orfが同定された。またこの他に、偽遺伝子と思われる配列が2個存在した。これらの遺伝子のうち、17個の遺伝子に合計32個のイントロンの存在が認められた。次に、ゼニゴケミトコンドリアゲノムのコドン表を作成した結果、同定された29個のtRNA遺伝子では全てのコドンを読むことができず、最低限必要な残り2個のtRNA遺伝子は核ゲノムにコードされているものと思われた。一般に、高等植物ミトコンドリアゲノムには、葉緑体DNAの挿入やRNA編集といった現象が見られる。しかしながら、塩基配列およびアミノ酸配列の解析の結果、ゼニゴケミトコンドリアゲノムには両者ともないものと推測された。またゼニゴケにおいては、遺伝子の並び方が原核生物のものと非常に似ている遺伝子クラスターが存在した。このことは、ミトコンドリアの共生説を強く支持するものであり、ゼニゴケミトコンドリアゲノムがよりその起源に近い姿をしていることが示唆された。今後は、同定された遺伝子の発現機構を明らかにし、ミトコンドリアゲノムの動的な遺伝情報システムを解明する。
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