本年度は、本研究課題の最終目標であるThermus thermophilusの染色体地図の作製、遺伝学的育種法の基盤の確立にむけて基礎的な検討を行い、以下の成果をあげた。 1.Thermus thermophilus HB27株から、変異処理により、新たに30種以上の形質が安定な変異株を分離した。これにより、変異株の総数はこれまでに分離していたものを加えて60株以上となった。 2.T.thermophilusが保有している性質の一つである高い自然形質転換能について、その基本的特性を検討した。その結果、取り込むDNAに対する特異性は無いこと、供与DNAは2本鎖でなければ取り込まれず、また、その長さが形質転換効率に影響を与えること等を明らかにした。 3.上記の検討結果より、形質転換を用いてT.thermophilusの遺伝子の連鎖を検討できることが明らかとなったので、各種の変異株を受容菌やDNA供与菌として形質転換を行った。その結果、異なる栄養要求性マ-カ-間では、pro7変異とleu7変異の間に連鎖が認められた。また、同一マ-カ-間での変異株ごとの変異部位の相対的距離も、形質転換によって推定できることが可能であることも明らかにした。 4.受容菌の培養温度を変化させての形質転換実験により、形質転換効率に与える膜組成の変化の影響は殆どなく、70℃付近に活性の至適温度を有するDNA取り込み機能、またはDNA組換え機能が形質転換の律速因子であるものと推察された。 今後は、1.で分離された核酸要求性変異株を用いて、アイソト-プ標識したDNAを調製し、これを用いて形質転換機構の定量的な解析も行っていきたいと考えている。
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