本研究の目的は、最近医学生物学分野でますます有力な手法として利用されてきている免疫学的な抗原抗体反応ならびに急速凍結割断法を木質細胞壁の形成の研究に応用して、細胞壁成分の堆積とこれら成分の堆積の制御機構に関する新しい知見を得ようとするものである。 平成3年度には細胞壁成分の中で最も重要なセルロースのミクロフィブリル(MF)の配向に密接な関係があると考えられている微小管の細胞内での正確な分布や配列を把握し、セルロースMFの配向の制御との関連性の有無を明らかにするための実験をおこなった。すなわち、トチノキのシュートを用いて、シュートの伸長にともなう細胞の伸長ならびに細胞内の表層微小管の配列を調べた結果、微小管の配向変化が明所ならびに暗所における伸長にともなって漸進的に起こること、暗所よりも明所において早く変化すること、微小管が横巻きから斜めさらに細胞主軸方向に配向を変えることにより、MFの堆積が微小管と同じ方向に堆積するので細胞の伸長ひいてはシュートの伸長が抑制されることが明かとなった。 平成4年度には急速凍結した細胞壁の三次元的構造をとらえることにより細胞壁の分子構築機構を明らかにする研究が行われた。すなわち、ポプラの懸濁培養細胞において、(1)EDTA、4%KOH、24%KOHにより順次細胞壁成分をとり除く、(2)ポリガラクツロナーゼやペクトリアーゼの酵素により細胞壁成分をとり除く、の処理を行った後に細胞壁の急速凍結ディープエッチングを行った結果EDTAや酵素処理によりペクチン質が除かれ、細胞壁のMF間の空隙が若干広がるのでペクチン質はMF間空隙の大きさをコントロールすると考えられた。アルカリ処理を行うと希アルカリではMF間の空隙がさらに広がるが三次元構造は維持される。一方、強アルカリ処理を行うと三次元構造が壊される。これはセルロースMFを結び付けているヘミセルロース成分が強アルカリにより抽出されたことによると考えられた。一般に双子葉類の細胞壁の主要なヘミセルロースはキシログルカンであるのでポプラ培養細胞壁ではキシログルカンが細胞壁の三次元構造を維持する主要な因子であると考えられた。
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