研究概要 |
1.心材形成に適する培養条件の検討および心材成分の分析 立木では心材形成の指標としてチロ-スの形成や細胞内充填物質の蓄積などの顕微鏡的特徴がみられるが,培養細胞の場合にそのような指標は有効ではない。そこで,我々は心材成分の生産をもって心材形成の指標とみなすことにした。一般に樹木の培養細胞は心材成のような二次代謝産物を生産しにくい。ここでは,種々の条件下で細胞を継代培養し,その細胞の有機溶媒抽出物中に心材成分が含まれているか否かを,GC,GCMSまたはHPLCにより分析した。また,心材成分がフィトアレキシンである可能性についても検討した。その結果,スギおよびヒノキの細胞には心材成分が検出されず,マツ属3種(Pinus thunbegii,P.pentaphylla,P.koraiensisおよびヒノキ科のCupressus lusitanicaのカルスについては心材成分の生合成を誘導することに成功した。前者は改変MS培地上で長期間の培養によりピノシルビンとそのモノメチルエ-テルを生産した。後者ではB5培地で旺盛に成長しつつある細胞が,エリシタ-の作用によりβーツヤプリシンを生産し,これにCa^+を添加するとβーツヤプリシン生産量はさらに増大した。後者の系は,制御された条件下で心材成分の生合成を誘導できる好材料と判断した。 2.心材成分生合成酵素の検討 上述の,C.lusitanicaのカルスにエリシタ-を作用させてツヤプリシン生合成能力を確認した後,液体窒素中でホモジナイズし,得られたホモジネ-トにイソペンテニルピロリン酸を加えた。これを20時間インキュベ-トしてもツヤプリシンの生成は確認できなかったが,水溶性化合物が生成したので,これがツヤプリシンの前駆体である可能性の有無について次年度以降検討する予定である。
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