TTXあるいはPSPはある種の海洋細菌によって生産されると考えられているが、細菌の毒生産能は著しく小さい。このことは細菌ばかりでなく、TTXやPSPを持つ生物も毒生産に関与することを示唆する。本研究は有毒生物が細菌のRNAを体内で分解して毒に変えるという考えに基ずきその機構を明らかにしようとするものであるが、これまでの研究でRNAを分解する酵素の分離が困難であった。すなわち、本酵素は一種の誘導酵素であると考えられる。そこで有毒生物が細菌でどのような機構で毒化するかを明らかにするため、有毒生物としてフグを選びその毒化機構を調べた。筆者らはフグが肝臓で毒を作る可能性を報告している。そこでまず天然の有毒フグの多くの個体につき肝臓内に細菌が存在するか否かを調べた。無菌的に摘出したフグ肝臓をホモジナイズし寒天平板に接種したところ70%以上の個体から細菌が分離された。そこでこれら細菌を一種選んでウサギを免疫して抗体を調製した。得られた抗体を用いフグ肝臓より分離された細菌との免疫反応を調べたところ、反応の見られたものもあったが、見られないものも多くみられ、肝臓に存在すると思われる菌が一種類ではないことを示した。抗体との反応の認められた細菌が得られた個体の肝臓を抗原とし、抗体との反応を調べたところ反応が認められた。このことは得られた菌が肝臓内に存在することを意味する。そこで有毒マフグの肝臓の組織を電顕観察したところ細胞内に細菌の存在が認められた。しかし同様に有毒ヒガンフグ肝臓を観察したところこのような細菌は観察されなかった。この点については更なる検討が必要であるが、この結果はフグの毒化には細菌の肝臓への侵入が必要であることを示唆する。そこで無毒の養殖トラフグにマフグの有毒個体より分離した細菌を接種したところ例数は少なかったが一部で毒化が認められた。
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