49頭のネコをペントバルビタール麻酔下あるいはハロセン麻酔下で脊髄ネコとし、第1腰髄節に入る左右の5種類の筋神経(多裂筋、最長筋、腸肋筋、外腹斜筋、腹直筋の神経)と2種類の皮膚神経(背側皮膚神経、腹側皮膚神経)をそれぞれ電気刺激し、その結果生ずる体幹筋(多裂筋、最長筋、腸肋筋、外腹斜筋、腹直筋)の運動ニューロンの反応を細胞内記録により調べた。 この結果、脊髄ネコの髄節内シナプス応答では、背側筋(多裂筋、最長筋、腸肋筋)および腹側筋(外腹斜筋、腹直筋)のα運動ニューロンはすべての背側筋、腹側筋および皮膚の神経から両側性に興奮性効果を受けており、求心性線維から運動ニューロンまで3個以上のシナプスを介する反応が最も多かった。また、相反性神経支配は存在せず、同側の背側筋と腹側筋の間には2シナプス性抑制効果が少数例認められたが、多シナプス性興奮性効果が優性であった。このことは、同側の背側筋と腹側筋、左右の背側筋、左右の腹側筋、対角線上の背側筋と腹側筋はいずれも協同筋として働くことを意味している。同側の多裂筋と最長筋の筋神経とそれぞれのα運動ニューロン間、最長筋と腸肋筋の筋神経とそれぞれのα運動ニューロン間には単シナプス性興奮性経路が存在したので、これら解剖学的に隣接する筋間の関係はより密接であることが明らかとなった。 αクロラロース麻酔下のネコの髄節内シナプス応答では、脊髄ネコの場合とは異なり、複雑な反応結果が得られた。ほとんどの経路で、多シナプス性興奮経路が優勢であったものの、脊髄ネコの場合と比較すると多シナプス性抑制反応が多く観察され、同側の、外腹斜筋神経から多裂筋運動ニューロン、多裂筋神経から最長筋運動ニューロンに至る経路、および対側の、外腹斜筋神経と腸肋筋神経から最長筋運動ニューロン、腹直筋神経から腸肋筋神経に至る経路では、多シナプス性抑制反応が優勢となった。外腹斜筋と腹直筋の運動ニューロンでは、刺激神経の刺激強度を増加しても無反応を示す例が増加した。αクロラロース麻酔ネコと脊髄ネコの相違は、αクロラロース麻酔ネコでは脳および脊髄上部からの下行性入力が存在しているということである。αクロラロース麻酔ネコの体幹筋運動ニューロンでは、脊髄ネコのそれと比べて、多シナプス性抑制反応や無反応が増加したということは、脳からの下行性経路は髄節内の反応を抑制する傾向が強いということを示唆している。
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