前年度はピロプラズマ原虫感染赤血球の生化学的、免疫学的変化を追求した。本年度は、ピロプラズマ感染動物体内における赤血球動態ならびに網内系の状態を検討したところ、以下の成績が得られた。すなわち、1.Babesia gibsoni 感染により貧血を呈した犬にプレドニソロン(2mg/kg/day)を7日間連続投与したところ、投与開始後1-3日目よりヘマトクリット値の上昇と網赤血球数の減少が観察された。プレドニソロ投与終了頃より原虫寄生赤血球が出現し、それとともにヘマトクリット値の減少および網赤血球数の増加がみられた。 2.B.gibsoni感染犬末梢血液から単球(マクロファージ)を分離、培養し、その赤血球貧食能を検討した。その結果、プレドニソロン投与後の原虫寄生率の急上昇に伴い、感染犬マクロファージの赤血球貧食能は著しく亢進した。 3.感染犬マクロファージの赤血球貧食能はプレドニソロン投与中から上昇する傾向を示した。 4.プレドニソロンを投与した非感染犬(対照犬)の末梢血マクロファージの赤血球貧食能は、マクロファージ刺激剤(PMA)非存在下の培養では変化を示さなかったが、PMA存在下では赤血球貧食能の亢進がみられた。 以上の成績から、ピロプラズマ感染動物では体内でのピロプラズマ原虫の増殖によって、マクロファージの赤血球食能が著しく高まる結果、高度の貧血が発生することが強く示唆された。また、プレドニソロン投与はマクロファージの赤血球貧食を抑制しなかったことから、プレドニソロン投与により観察された貧血の一時的回復は、マクロファージの赤血球貧食がプレドニソロンにより抑制された結果発生したのではなく、別の機序の関与が考えられた。
|