研究概要 |
家畜のピロプラズマ症の治療、予防法の確立のために、本症の貧血発生機序の解明を試みた。本研究では、わが国の代表的ピロプラズマ原虫であるBabesia gibsoniを使用して感染動物(犬)における貧血発生機序を追求した。最初に、B.gibsoniの体外培養法の確立を試みた結果、その培養に世界で初めて成功した。ついで、確立された培養系を用いて、原虫と赤血球の混合培養を行い、原虫の赤血球に及ぼす障害作用を明らかにした。次に感染動物体内における赤血球動態とそれに関与すると考えられる網内系の役割を検討した。その結果、以下の成績が得られた。 1.B.gibsoni の培養にはα-medium に正常犬血清を40%加えた培養液を使用し、これにB.gibsoni感染犬赤血球をヘマトクリット値で3-10%になるように浮遊させ、マイクロプレートに分注後、5%CO_2下、37℃で培養した。この条件下で原虫寄生率は培養開始時の6-20倍に達した。さらに、網赤血球を加えることにより、原虫寄生率を60-80%に高めることに成功した。2.培養液中では原虫増殖に伴い、培養赤血球のメトヘモグロビン濃度および過酸化脂質濃度が上昇した。3.原虫増殖時には培養赤血球のグルコース消費量の増加、乳酸産生量および2,3-DPG量の増加がみられた。さらに、4.感染赤血球の変形能の低下が認められた。5.感染犬では、原虫寄生率の上昇に伴い、末梢血マクロファージの赤血球貧食能が著しく亢進した。6.慢性感染犬ではプレドニソロン投与により、貧血が一時的に改善された。7.プレドニソロン投与はマクロファージの赤血球貧食を抑制しなかった。以上の成績から、ピロプラズマ感染動物では原虫増殖により赤血球に酸化障害が生じること、そのために、障害赤血球に対する全身のマクロファージの赤血球貧食が亢進する結果、貧血が発生するものと推察された。
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