本課題では我々が初めて樹立したマウス胎仔肝由来上皮性細胞株、FHC-4D2の造血支持機能の検索を行い、造血支持機能が確認されてからはその造血支持の作用機構の解析に主力を注いだ。その結果、胎仔肝由来上皮細胞株は(1)短期培養ではそれらが産生分泌する液性因子で造血を支持しており、(2)その液性因子は少なくともM-CSFとGM-CSFであることが判明した。(3)さらにFHC-4D2は造血前駆細胞を長期にin vitroで維持することが確かめられ、(4)長期に亘る支持作用はFHC-4D2と造血前駆細胞の直接の接触が必須であることも明らかになった。(5)またFHC-4D2はリンパ球に対しての支持作用も有し、マウス胎仔胸腺リンパ球を1L-2の共存下に増殖させ、それらをγδ型TCRを持ったCD8ααタイプの細胞傷害性のTリンパ球に分化させた。(6)FHC-4D2はBリンパ球に対しても支持作用を発揮したが、表面に免疫グロブリンを発現しない未熟なBリンパ球が産生され、肝細胞株のみではそれ以上には分化が進まなかった。それらをWhitlock-Witteの培養に移すと表面に免疫グロブリンを発現するまでになった。以上のように胎仔肝上皮細胞株、FHC-4D2を使って胎仔肝における造血機構が細胞レベルでかなり明らかになりつつある。上皮性の「肝細胞」は造血のための支質細胞として胎仔肝で働いていることが解明されたと言える。 これまで胎仔肝は胎生時代の重要な造血臓器であると言われながら造血機構についての直接的な証明はほとんどなされていなかった。その点では我々の成果は重要な示唆を与えるものである。今後、特に造血前駆細胞との直接的な接触によって発揮されるところの「接着因子」の解明が当面する重要な課題となろう。我々は株細胞の利点を最大に生かして、これからも胎仔肝造血機構の研究を発展させるべく最大の努力を払いたい。
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