研究概要 |
腸運動の「ペ-スメ-カ-細胞」は、電気生理学的にslow wave(緩徐波)を生ずる。これはTTX,アトロピンなどで神経を遮断して記録され、近傍にある一般平滑筋細胞の弱い収縮を伴う。本研究の目的は、「ペ-スメ-カ-細胞」の形態を明らかにし、その細胞生物学的性質を顕微鏡を用いた手法で検討することにある。 1.平成3年度は、まずイヌの空腸と近位結腸を走査型電子顕微鏡と透過型電子顕微鏡で研究した。イヌの近位結腸の内輪筋層の最深部で、線維芽細胞や一般平滑筋とは異なる細長い細胞を見出して、その外形と微細構造を検討した。免疫形態学的手法を使って、ビメンチン,アクチン,MAPsなどの細胞骨格およびその関連蛋白の存在を調べた。多数のギャップ結合や小窩(caveolae)の存在から、一種の平滑筋と予想されるが、なおこの細胞群を取り出して、収縮能や電気的性質を解明しなければならない。 2.レ-ザ-微小外科法、細胞内電極法および組織培養法を用いた研究の成果は映画や日本語のエッセイとして公表したので、腸管運動のメカニズムに関する社会への啓蒙にはなったと信ずる。この方面は継続して、最終年度までには論文としてまとめたい。 3.平成3年度中、熊本大学西川伸一教授に依頼されて、受容体型チロシンキナ-ゼ癌源遺伝子cーkitの産物に対するモロクロ-ナル抗体(ACK_2)を新生仔マウスの腹腔内に注射する実験を行なった。ACK_2投与によって腸管運動は止まる。神経系を調べた限りでは正常。ブラジキニンまたはアセチルコリン投与で腸管の収縮を起こすことができる。ACK_2の結合の場を調べたところ「ペ-スメ-カ-細胞」の存在部位とほぼ一致していた。
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