研究概要 |
腎近位尿細管のイオン・水輸送の調節に関して、特にノルエピネフリンやアンギオテンシンーIIは尿細管に直接作用するが、その細胞内シグナル伝達機構は充分には明かではない。今回われわれは、蛙腎近位尿細管細胞によるイオン輸送に対するアンギオテンシンーIIとカテコラミンなどの作用機序を詳細に調べた。方法:食用蛙二重灌流腎を用いて、尿細管周囲側よりアンギオテンシンーII(AGーII,10^<-9>ー10^<-12>M)、ノルエピネフリン(NE,10^<-7>M)、ジブチリルーcAMP(dbーcAMP,10^<-4>M)などを投与したときの細胞内Ca(Ca_i)、Na(Na_i)、pH(pH_i)と管腔内pH(pH_<TF>)の経時的変化を二連イオン微小電極で測定した。また、油滴分割法で管腔内液の再吸収動態を観察した。成績:10^<-11>ー10^<-12>M(低濃度)AGーII投与によって、Na_iの上昇後の低下、管腔液の再吸収率の増加を認めた。さらに、AGーII投与によりpH_iおよびpH_<TF>の低下を認めた。10^<-9>ー10^<-10>M(高濃度)AGーII投与は、著名なCa_i上昇と共に管腔液の再吸収率を抑制した。10^<-7>MのNE投与は、軽度のCa_iの上昇を起こすが、Na_i、pH_i、pH_<TF>および管腔液の再吸収に対し低濃度のAGーII投与時とほぼ同様の変化を示した。さらに、10^<ー12>M AGーIIのpH_<TF>に対する効果はdbーcAMP投与により抑制された。なお、dbーcAMP投与によるNa_i、pH_<TF>、pH_iの変化の詳細は以前に報告した(Fujimoto et al,Jpn J Physiol,40:1988)。結諭:近位尿細管では、低濃度のAGーIIはアデニレ-ト・サイクレ-ス抑制系を介し、主に水・Na再吸収促進、pH_i低下に伴う尿酸性化を促進する。この機構は、細胞内小器管から細胞質へのHの遊離、管腔膜でのNa/H交換機構の促進などである。それに対し、高濃度のAGーIIは著名にCa_iを上昇させ、水・Na再吸収の抑制をする。NE作用は、一部Ca系を介するが、低濃度のAGーIIの作用とほぼ類似効果を示す、また、アデニレ-ト・サイクレ-ス賦活系を介する作用は、水・Na再吸収抑制、尿酸性化の抑制、細胞内酸性小胞へのH取り込み促進、管腔膜でのNa/H交換機構の抑制をもたらす。
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