本年度は主として器官培養系を用いて、三叉神経節細胞のニューロン突起とウィスカーを形成する上顎組織との間にどのような相互作用が起こるかを観察した。まず、上顎組織のみを胎生(E)13〜E14のラットより分離し器官培養すると、ウィスカーの原基となる組織より、幼若型の突起状のウィスカーが次第に伸長してくる。その時、各ウィスカー間の相対的な位置はある程度保たれている。培養器官周囲にはフィブロブラスト様の細胞が中心より浸潤していく。ここに隣接して三叉神経節のエクスプラントを培養すると、神経突起はウィスカー周辺部まで伸展していく。しかし、上顎組織を取り巻くフィブロブラスト様細胞は、避ける様な形で突起を伸ばす場合が多い。これらの細胞が突起伸展を抑制する物質をもつ可能性が高い。コントロールとして三叉神経節のかわりに網膜神経節細胞を含む網膜組織をやはりE13〜E14のラットから分離したものを培養すると、網膜からの神経突起は、上顎組織の培養塊から一定の距離内には入り込まない。境界部に細胞がほとんど見られない状態でもこの突起伸展抑制がおこることから、細胞そのものによる阻害というより、細胞から分泌される何らかの物質による阻害の可能性が高い。この物質は、エクスプラントより半径約400μm〜500μmくらいの範囲に沈着し、影響を及ぼすと考えられる。 今後はこれらの物質の精製と同定を行なうことを目標としたい。そのために胎児期の上顎組織に発現または、そこから分泌される既知の突起伸展叉は抑制作用のある物質に対する抗体等を用い、突起伸展がどのような影響を受けるかを調べていく。
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