マウス及びラットのウイスカー(上顎部皮膚のひげ)の刺激による感覚情報は三叉神経感覚枝を介して脳幹の三叉神経核に伝えられる。個々のウイスカー根部に起始する一次求心性線維は、それぞれ三叉神経核内の特定の部位に投射し、数十本あるウイスカーの相対的位置関係が、三叉神経核内においてそのまま再現されている。これまでの末梢神経系で明らにされた神経発生学的知見から、この形成過程は発生のある時に同一のウイスカーからの一次求心性線維同士を認識しあう特定の分子が発現し、これらの線維が走行や終止の部位で収束し、三叉神経核内のバレル様構造の一つに投射すると推察される。本研究ではウイスカーから三叉神経核にいたる選択的神経結合の形成される過程について以下の解析を行なった。 (1)胎生-新生ラットの顔面・脳幹摘出標本を用いて個々のウイスカーを電気刺激し、誘発される電位変化を脳幹三叉神経核の各部位から記録した。これにより、一次求心線維の三叉神経核内での結合の空間パタンがE19.5からP0のかけて変化することが分かった。E19.5では各枝からの終止のオーバーラップする領域が広いが、P0ではその境界がより明瞭になる。(2)各ウイスカーの根部にDil等の蛍光色素を注入し、一次求心性線維の超神経節染色を行い、各時期の三叉神経核内での軸索終止の空間的分布様式を調べ、同時に特定のガングリオシドに対する抗体を用いて、三叉神経系の発達段階における抗原の発現時期とその局在を比較した。その結果この抗原が三叉神経のファシキュレーションに役割を果たすことが示唆された。(3)上顎部皮膚、三叉神経節の共培養を行い、三叉神経節細胞からの突起は上顎部皮膚に対しては親和性を示したが、網膜細胞に対してはそれを避けるような形で突起をのばした。網膜細胞には三叉神経突起伸展を抑えるような物質が発現している可能性がある。
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