視覚識別指向運動は視野内にあるまたは新たに現れた複数の対象を識別して、そのうち1つを選択し、それに指向する運動である。本研究はこの視覚識別指向運動に関与する大脳皮質内経路を明らかにすることを目的とした。 動物はネコを用いた。ネコを前方正中を正視した状態から、新たにパネル上に出現したオレンジとグレープの立体模型のうちオレンジを識別選択してそれに頭を向け、注視するように訓練した。視覚情報の入力経路には大きく分けて膝状体系と非膝状体系がある。そのどちらが関係するか明らかにするため、まず外側膝状体の主要皮質投射領域である17-18野を両側性に破壊したが識別指向運動には著明な障害はみられなかった。一方非膝状体系が投射する上シルビウス溝外側堤にあるPLLS領域の一側を選択的に破壊すると、破壊側脳(破壊と対側視野)での識別は障害された。このためネコはまず正常の脳の視野で識別物体を捕らえて判断し、間違った場合には対側を向くように運動方針を変え障害を補償した。この結果、PLLSが視覚識別における視覚入力の重要な中継部位であることが分かった。次に識別結果の皮質出力部位を調べるため、脳幹、脊髄に投射する色々な皮質領域を破壊した。前頭眼野の左側を破壊すると、右視野での識別ができなくなり、ネコは常に左視野の端に向き左視野で識別物体を捕らえ、判断するように運動方針を変え障害を補償した。これらの結果から、識別結果は前頭眼野を経て上丘に出力されると考えた。 無拘束の状態で運動を行っているネコから神経活動を複数の部位から同時記録する方法を開発した。現在、上丘、前頭眼野、PLLSから視覚識別指向運動中の神経細胞の活動を記録し解析中である。今までに運動の色々な過程に特異的に関係した活動をする神経細胞がそれぞれの部位から多数記録されている。
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