中枢神経系の神経細胞において、いかなるCa電流がシナプス前終末部からの伝達物質放出に関与しているかを検討した。実験にはキンギョ網膜からタンパク質分解酵素を使って単離したON型双極細胞を用いた。パッチ電極によるホ-ルセルクランプ条件下で膜電位を約-45mVよりも脱分極すると、持続性のCa電流が活性化さた。この電流は、Cdイオンやジヒドロピリジン系の薬物(nifedipine・nicardipine・Bay K 8644)の影響を受けたが、ωーconotoxinには感受性を示さなかった。Caチャネルの分布を推定するために、細胞内Caイオン濃度の空間的・時間的変化を蛍光性Caインジケ-タであるFuraー2を使って画像解析した。ホ-ルセルクランプ条件下で双極細胞に脱分極パルスを与えてCa電流を活性化すると、軸索終末部において急激な細胞内Caイオン濃度の増加が観察され、一方、細胞体では軸索終末部に流入したCaイオンの細胞内拡散による緩やかで僅かな上昇が認められた。nicardipineを投与すると、Ca電流が阻害されると共に細胞内Caイオン濃度の上昇も抑制された。軸索終末部のCa電流が伝達物質(興奮性アミノ酸)の放出に関与するか否かを検討するために、双極細胞の軸索終末部に密着させたアメリカナマズの単離水平細胞を使って興奮性アミノ酸を電気生理学的に検出した。双極細胞を脱分極すると、この細胞から Ca電流が活性化され、数ミリ秒遅れて水平細胞から電流応答(伝達物質応答)が記録された。Ca電流と伝達物質応答は、nifedipineによって阻害され、Bay K 8644によって増大したが、ωーconotoxinによってはなんら影響を受けなかった。以上の結果から、キンギョ網膜のON型双極細胞では、ジヒドロピリジン感受性のCaチャネルが軸索終末部に局在し、その活性化が興奮性アミノ酸の放出を引き起こすことが明らかになった。
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