中枢神経系におけるCa-伝達物質放出連関を調べた。実験材料として、キンギョの網膜から単離したON型双極細胞を用いた。パッチ電極による膜電位固定下でCa電流を記録すると同時に、パッチ電極から導入した蛍光性Caインジケータを使って細胞内遊離Caイオン濃度を測定した。また、単離した双極細胞から放出される興奮性アミノ酸は、ゲルタミン酸に高感受性を示す神経細胞(アメリカナマズ網膜から単離した水平細胞)を使って電気生理学的に実時間でバイオアッセイした。以下の知見が得られた。 1.双極細胞のCa電流を活性化させると、細胞内遊離Caイオン濃度は軸索終末部で急速に増加し、細胞体では遅延性に僅かな上昇が認められた。この現象は、軸索終末部と細胞体におけるCa緩衝能力の差異ではなく、Caチャネルの軸索終末部における局在によるものであった。 2.双極細胞へ流入したCaイオンの量が少ない場合には、流入量にほぼ比例して細胞内遊離Caイオン濃度の変化量は増加したが、流入量が多くなると遊離Caイオン濃度の変化量は頭打ちとなった。細胞内遊離Caイオン濃度の制御には、Ca結合タンパク質・Caポンプ・Na-Ca交換機構などの関与が示唆された。 3.双極細胞における遊離Caイオン濃度の増加はジヒドロピリジン系のCaチャネル阻害剤によって抑制された。一方、細胞内Ca貯蔵部位からCaイオンが放出されるとの証拠は今回得られなかった。したがって、細胞内遊離Caイオン濃度の上昇は、主にCaチャネルを介して流入したCaイオンによると考えられる。 4.双極細胞へのCaイオンの流入量が増すと興奮性アミノ酸の放出量は増加したが、流入量が多くなると放出量は飽和した。細胞内遊離Caイオン濃度と興奮性アミノ酸の放出量の関係については、現在検討中である。
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