研究概要 |
脊髄抑制性シナプスのグリシン受容体は、α,βのサブユニットから成り、αサブユニットは、胎生型(α_2)と、成熟型(α_1)が存在することが知られる。α_2は、生後3週以内に、完全にα_1と置換されることも知られている。一方、脊髄ニューロンにおいて、IPSCの下降時間は、個体発生と共に短縮し、生後2-3週で、最小値に達することが今回の研究で明らかとなった。IPSCの下降時間の短縮は、グリシン受容体チャンネルの開口時間の短縮によって、よく説明される。そこで、グリシン受容体チャンネル開口時間の短縮と、α_1-α_2スイッチングとの関係を明らかとする目的で、α_1,α_2サブユニット対応CDNAから合成しとCRNAを、アフリカツメガエル卵母細胞に注入して、新たにα_1,α_2サブユニット単独による受容体を発現させた。クリシンを投与すると、α_1,α_2 受容体を発現した卵母細胞は、大きな電流応答を示した。卵母細胞に、パッチクランプ法を適用し、アウトサイドアウトバッチ記録によって、グリシン(α_1orα_2)受容体、単一チャンネル電流を記録した。α_1α_2 受容体は、いずれも複数の開口レベルを示したが、お互のコンダクタンスには、大きな差異は認められなかった。一方、チャンネル開口時間に関しては、α_1受容体の平均開口時定数は2038ms(n:9)、α_2受容体の平均開口時定数は174ms(n:8)と、著しい差異が認められた。したがって、個体発生に伴って、α_2サブユニットが、α_1サブユニットへと置換されることにより、グリシン受容体チャンネルの開口時間が短縮すると結論される。チャンネル開口時間の短縮は、IPSCの下降相の短縮へと反映され、成熟動物における速い時間経過のシナプス応答が形成されるものと考えられる。
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