研究概要 |
ヒトを頸まで水中に浸漬させると(頸下浸水)動脈血圧や血漿浸透圧を変化させずに心房伸展受容器を刺激することが出来る。頸下浸水によるこのような反応の特徴を利用してヒトの口渇及び飲水行動に対する血漿浸透圧、ADH、及び低圧系受容器の中枢への関与の度合を研究することを計画した。 プロトコール:健康な男子被験者10名を使い、実験前日夕方(夕食後)35℃の人工気候室で65%最大運動量(自転車エルゴメータ)を2時間負荷し翌朝水温34.5℃(中性水温)のタンクにて頸下浸水を3時間行う。浸水期及び回復期には飲水を制限せず、口渇の程度と飲水量をを測定する。 実験実施方法:血液サンプルを各期共に30分間隔で採取して次の項目の測定を行う。 (1)循環血液量測定、(2)血液の電解質濃度及び浸透圧、(3)血液のADH、アルドステロン及びANP、(4)心拍出量、(5)腎機能の変化(尿量,GFR,クリアランス、及び電解質排泄量) 研究成果:体重の約4%に相当する脱水後の頸下浸水実験が実施された。この結果この実験方法は安全であり、浸水する事により、ヒトの口渇感が減退し、飲水量も減少する事が確認された。 1.対照群では頸下浸水によって尿量が著しく増加したのに対し脱水群では尿量が増加しなかった。 2.心拍出量は頸下浸水によって、脱水群、対照群ともに上昇するが、脱水群の方が、浸水中高値を保った。血液量も頸下浸水によって増加する。しかし対照者ではこの上昇は一過性(約20分間の持続)であるのに対し、脱水群では、浸水中高値が持続した。以上を要約すると対照群では頸下浸水によって大きな利尿があるのに対し、脱水群では尿量が増加しない事が血液量を高値に保たせる原因であろうと考えられた。 要約:頚下浸水による、脱水時の口渇および、飲水量の減少は、血漿の浸透圧より容積の役割が大きいことが判明した。
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