研究概要 |
この研究の目的は脱水(体重の約4%、血漿浸透圧約10mosmol/kg上昇)により強い口渇を誘発させた被験者を頚下浸水させ血漿浸透圧および液性因子(アンギオテンシン,ADH,ANP等)等のいわゆる"細胞性の因子"と血漿量や圧受容器へのインプット(いわゆる"細胞外性の因子")を経時的に測定し,これらのパラメーターと飲水量及び口渇の消失との相互関係を解析し、ヒトの飲水行動に関与する因子の度合を解明することであった。その結果この実験方法は安全で当初の予想どうり、浸水する事により、ヒトの口渇感が減退する事が確認された。体重の3-4%の減少および血漿浸透圧を10mosmol/kg上昇させるような脱水条件では、ヒトは著しい口渇感を覚える。飲水をさせずに頚下浸水を続けた脱水状態の被験者でも口渇感は消失したことから、飲水行動に伴う咽頭反射(咽頭受容器)や、胃の膨満感(胃内受容器)はこの実験系から除外することが出来、これらがヒトの口渇感の軽減には大きな役割を果たしていないことは明確になった。脱水状態の被験者の頚下浸水中には口渇感は減弱するにもかかわらず、血漿浸透は高値(^+10mosmol/kg)を保っていた。したがって浸透圧が高いままでも中枢は口渇感を減弱させることになる。つまり細胞性の因子はここでは関与していないことになる。さらに脱水時には頚下浸水中も血漿量が高値を保ったままであった。これは脱水状態では尿量が増加しないにもかかわらず、頚下浸水による体液の移動は有効に作用していたことを意味する。その結果脱水状態での頚下浸水中は容積受容器がより多く刺激されていたことが推察される。つまり細胞外性の因子が口渇感の減弱および飲水量の低減を惹起させる主な因子であることが判明した。 結論として頚下浸水中に見られる口渇感および飲水行動を減弱させる機序としては、細胞外性の因子が大きな役割を果たしていることが判明した。
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