癌に対する生体反応におけるIgDの関与を主として研究した。これまでに、癌細胞表面のQa-2抗原に対して、担癌宿主が抗Qa-2 IgDを生産することを明らかにして来た。このIgDの認識標的の一つであるがQa-2癌抗原の本態について解析を行なった。その結果、正常リンパ球に同種異系抗原として表現されるQa-2抗原がマウス第17番染色体のQa/Tla領域のQ7遺伝子の産物であるのに対して、細胞の癌化に伴って現われるQa-2抗原は、これと異なるQ5遺伝子の産物であることを、生化学的、免癌学的、及び分子生物学的に明らかにした。Q5遺伝子産物が担癌状態でなぜIgD生産のような特殊な反応を惹起するのかについて考察した結果、Q5遺伝子が胎児の一時期に発現しているのではないかと考え、これについて検討した。その結果、Q5遺伝子はマウス胎生13-16日に肝臓に於て発現していることが明らかとなった。この知見はIgD応答の成り立ちについて大きい示唆を与えるものと思われる。一方、IgDはこれまで生理活性の全く不明なイムノグロブリンであるが、その活性として、細胞介存性の標的細胞障害反応を行うことをほぼ明らかにした。そのエフェクター細胞のクローンを樹立し、これがCD3^+4^-8^-でα/β型T細胞受容体をもつリンパ球であることを明らかにした。この反応の存在を確立するためにIgDクラスの抗Qa-2モノクローナル抗体の作製を行なっている。このためにELISAによる抗原特異的Igdの微量検出法を案出し、またハイブリドーマ作製の親細胞として用いるミエローマ細胞にも表現されている癌拡原に対するモノクローン抗体の新らしい作製法を考案した。
|