研究概要 |
血清中の抗体微量成分であるIgDの生理活性については從来全く知見がない。我々は癌に対する生体反応の結果生産される血清成分の中にIgDと思われる因子を認め、これについて研究した。まず、このような因子の結合特異性を検討し、細胞の癌化に伴って発現されるQa-2,Ly-6、2等の同種異系リンパ球抗原が抗原となっていることを明らかにした。更にQa-2抗原に結合する因子がIgDであることを生化学的・免疫学的に確立した。この結果はまたIgD依存リンパ球介在細胞障害反応の存在を示すものであり、これは血清IgDの生理活性についての初めての知見である。またこの障害反応に関与するリンパ球はCD4^-,8^-,TCRα/β^+のT細胞であった。この反応を更に詳細に検討するために抗癌抗原IgD単抗体の作製を試みた。癌関連抗原に対する単抗体作製には特殊な困難があったが、それらは克服された。然し抗癌抗原IgD単抗体の取得には未だ至っていない。次にIgD応答の標的となるQa-2抗原につき更に詳しく検討した結果、これが実はQa-2抗原自体ではなく、これと共通抗原性をもつQ5遺伝子産物(Q5抗原)であることが確定された。また、IgD応答以外にも、Q5抗原が癌に対する生体固有の抵抗性を担うγ/δT細胞の認識標的となっていることが判った。IgD応答及びγ/δT細胞応答は比較的primitiveな免疫反応と考えられる。これに関連してマウス胎生の一時期の肝にQ5抗原が発現していることを認めた。このことが、癌に対する生体の自然抵抗性の一部として認められるこのような未分化な免疫反応と関係があるものと考察された。当初予測されたように自己免疫疾患や移植拒絶反応一般にIgDが関与するという知見は得られなかったが、これはこのようなIgDの認識する抗原の特殊性、即ち胎生の一時期にのみ発現する胎児性抗原でもあるという性格、によるものであると考えられる。
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