研究概要 |
豚脾臓の細胞質画分より完全精製に成功した40Kチロシンキナーゼは72Kの非受容体型のチロシンキナーゼの分解産物であることが明かになった。次にこの1次構造の1部より110塩基対のcDNA断片を得、これをプローブとして全長2575塩基対で628個のアミノ酸よりなる蛋白をコードするクローンを得ることが出来た。アミノ酸配列から細胞膜貫通領域を持たないこと、糖鎖も含まれていないこともが判明した。分子量約72,000であり脾臓のチロシンキナーゼにちなんでp72sykと名づけた。このp72sykは脾臓細胞において小麦胚芽凝集素などの添加によって自己燐酸化反応が促進する。血小板においては凝集を起こす小麦胚芽凝集素によって自己燐酸化活性の上昇と共に外からの基質蛋白質を燐酸化する活性が上昇することを見いだした。さらに生理的刺激物質であるスロンビンで血小板を刺激するとこのp72sykは凝集反応と同じような速度で活性化される。そしてこの活性化はCa2_+の存在によって素早くもとの状態に戻るが、Ca2_+を除くと活性を持続する。このCa2 D2+ D2による不活性化の機構は阻害剤の実験からカルモジュリン依存性のミオシン軽鎖キナーゼの可能性が強いことを明かにした。p72sykはSH2領域を持つことからチロシン燐酸と深い関わりあいがあることが考えられる。これらの結果はp72sykが細胞内情報伝達の一翼を担っている可能性を強く示唆しているものと思われる。またp72sykの生理的基質の検索を行うため、この酵素の良い基質であるH2Bヒストンの燐酸化部位を検索した。H2Bヒストンの5ケ所のチロシン残基のうち3ケ所が燐酸化されることが明かとなったが、特別なアミノ鎖配列は見当たらなかった。他の多くのチロシンキナーゼとは異なりチロシン残基のN末側のグルタミン酸の存在はp72sykの基質認識に関係ないようであり、蛋白質の1次構造のほか高次構造も基質認識に関係していると思われる。
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