研究分担者 |
小田 秀明 東京大学, 医学部, 助手 (40214142)
佐藤 明 東京大学, 医学部, 助手
森 正也 東京大学, 医学部, 助手 (90210137)
椙村 春彦 浜松医科大学, 医学部, 助教授 (00196742)
土橋 洋 大阪大学, 微生物病研究所, 研究員 (90231456)
SATO A. Tokyo Univ.Fac.of Med.Dept.of Pathol.Instructor
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研究概要 |
われわれは臨床病理学的手法により、甲状腺乳頭癌・濾胞癌中の一亜型として予後不良な低分化癌の存在を明らかにした(Sakamoto,A.,et al:Cancer,52:1849,1983)。今日ではその考えは広く認められるところとなり、わが国においては「外科・病理甲状腺癌取扱い規約」(第4版)でも組織亜型としてとり入れられている。この甲状腺低分化癌の生物学的態度を多面的に解析することを目的として本研究をすすめた。主に用いた手法は癌細胞より発現されるたん白質の免疫組織化学的検索、DNAの変異を検討する分子病理学的検索である。 免疫組織化学ではケラチン、ビメンチンなどの細胞骨格たんぱくが高分化癌により高い頻度で発現されていることを確認した。また癌遺伝子c-erbB_2,癌抑制遺伝子p53などのたんぱく、PCNAたんぱくの検討では未分化癌での過剰発現が高率に見い出され、甲状腺癌の組織学的分化度は細胞骨格たんぱくの発現、癌遺伝子、癌抑制遺伝子産物の発現様態と密接な関連があることが示された。特にp53遺伝子たんぱくの検討からは未分化癌で60%、低分化癌で40%の症例に過剰発現がみられたことより、低分化癌は乳頭癌、濾胞癌(いずれも過剰発現率は約10%)の一亜型としてではなく、未分化癌に類縁の予後の悪いタイプとして捉えることの妥当性が明らかにされた。 p53遺伝子の点突然変異の検索ではSSCP法、ダイレクト・シークエンス法により未分化癌でのエクソン5〜8領域の高頻度の変異を確認した。また、従来報告のなかった低分化癌においても点突然変異症例を見い出した。なお、未分化癌では変異を認めた4例中3例では1塩基の置換、1例では2塩基の挿入によるフレームシフトがみられた。以上の結果は高分化癌が低分化癌を経ての未分化癌へと悪性度を増してゆく脱分化の過程でのp53遺伝子の関与を強く示唆した。
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