研究概要 |
コレラはコレラ菌がつくるコレラ毒素によって起こり下痢を主症状とする病気である。コレラ毒素は1個のAサブユニットと5個のBサブユニットからなる蛋白毒素である。AサブユニットはA_1ペプチドとA_2ペプチドのジスルフィド結合によってできており、A_1ペプチドがNADのADPーribose部分を転移させるADPーribosyltransferaseである。この酵素活性が細胞内のGsaというGTP結合蛋白質を修飾することにより、アデニル酸シクラ-ゼを活性化し、細胞内のサイクリックAMP濃度を上昇させる。このサイクリックAMP濃度の上昇により、コレラ特有の水様性下痢がおこることが知られている。つまり、コレラ毒素の毒性の本体はA_1ペプチドがもつADPーribosyltransferase活性である。コレラ毒素のBサブユニットの助けにより標的細胞内に侵入したA_1ペプチドは、分子量20,000のADPーribosylation factor(ARF)という蛋白質因子と結合すると、そのADPーribosyltransferase活性が数倍亢進することを報告してきた。さらにわれわれは分子量約20,000のADPーribosylation inhibior(ARI)という蛋白質因子を発見し、その精製を行なってきた。平成3年度に購入した高速ホモジナイザ-を使用することによって、ウシの大脳のホモジナイズが多量に、しかも迅速に行なえるようになり安定した精製法を確立することができた。このように、精製されたARIを安定に手に入れることができるようになったため、ARIの作用機構等の解析が容易になった。ARIは、ARFと同様に80℃,10分間の加熱で失活する易熱性の蛋白質であった。ARIの活性は0.1%Triton xー100中で安定に保持されたが0.003%SDA存在下ではその活性を完全に失なった。ARFは0.1%Tritonxー100中ではその活性を発揮できず、0.003%SDS存在下では活性亢進がおこることをすでに報告したが、ARIはARFと種々の性状において明らかに異なることが明らかになり、現在さらに研究を継続中である。
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