研究概要 |
コレラは激しい下痢を主性状とする疾患であり、最近の南アメリカにおける大流行や、東南アジアの諸国における日常的な感染例は、今日でもコレラが深刻な社会問題であることを示している。コレラはコレラ菌(Vibrio cholerae)が菌体外に産生するコレラ毒素によっておこることが明らかにされている。コレラ毒素はNADをADP-リボースとニコチンアミドに分解し、前者を標的蛋白質に転移させるADP-ribosyltransferaseである。この酵素活性が細胞内のGSαというGTP結合蛋白質を修飾することにより、アデニル酸シクラーゼを活性化し、サイクリックAMP濃度を上昇させ下痢にいたらせる。しかしながら、その細なメカニズムは不明な点が多い。我々は細胞内に侵入したコレラ毒素に結合して、そのADP-ribosyltransferase活性を数倍あげるADP-ribosylation factor(ARF)が存在することをみつけ、その精製と作用機構について明らかにすることができた。さらにARFと分子量等が非常に似ているが、コレラ毒素のADP-ribosyltransferase活性を阻害するADP-ribosylation inhibiter(ARI)の存在も明らかにし、その精製と作用機,さらにはARIの構造と活性についても明らかにすることが出来た。 これらの一連の研究により、コレラ発症のメカニズムを理解するには、コレラ毒素そのものの毒性は勿論のこと、細胞内に存在して、コレラ毒素の毒性を変化させるARFおよびARIとの結合のメカニズム等を明らかにしなければならないことがわかった。そこで、コレラ発症のメカニズムを総合的に解析するために、種々の系でコレラ毒素の作用を調べた。これらの現象についても、我々がみつけたARFおよびARIなどに着目することによって説明が可能であると思われた。これらのデータを総合して、さらにコレラ発症のメカニズムを明らかにしていきたい。
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