研究概要 |
恙虫病リケッチアには、Gilliam,Karp,Kato株のようにマウスに対して強毒性を示す株の他に、Shimokoshi,Kawasaki,Kuroki株などのマウスに対して弱毒性の株が存在する。これらの株は血清学的に識別され、その血清型はこのリケッチアの表層に存在する分子量56,000(56K)蛋白の抗原性によることを我々は明らかにした。従ってこの56K蛋白がリケッチアの病原因子である可能性がある。そして血清型を異にする上記6株の56K蛋白遺伝子を解析し、その全アミノ酸配列を明らかにした。その結果、これらの56K蛋白の構造中には株間で4つの可変領域を含む特徴的な差異が存在することが判明した。昨年度の研究で、日本の分離株の血清型別とPCR法により増幅した56K蛋白遺伝子の制限酵素切断パターンの解析から、この手法が強毒株と弱毒株を容易に判別可能なものであることが明かとなった。本年度は台湾の野鼠及びツツガムシから10株のリケッチアを分離し、これらの56K蛋白遺伝子を上記の方法で解析した。その結果、台湾の分離株はその制限酵素切断パターンの相違から4〜5型に型別され、それらは日本の分離株のものとはまったく異なるものであることが判明した。 一方、我々は56K蛋白の病原因子としての役割を解析するため、大腸菌でこの56K蛋白を発現させる系の開発に努力した。56K蛋白遺伝子をPCR法により増幅し、pETベクターに組み込んで、56K蛋白の発現を試みた。その結果、発現誘導後数時間で56K蛋白は大腸菌の蛋白中で最も主要な蛋白として認められた。すなわち、我々が構築したプラスミドは多量の56K蛋白の発現を可能にすることが判明した。これにより今後この蛋白の機能解析が可能となり、さらに診断用抗原としての応用も可能になるものと期待される。
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