研究概要 |
本年度はT細胞活性化におけるLcKの役割について主に検討した。 LcKに結合しそのチロシンキナーゼ活性を特異的に抑制する抗LcKモノクローナル抗体,MOL171,MOL294を赤血球ゴースト法によりJurkatT細胞に細胞内注入し細胞内LcKのチロシンキナーゼ活性を特異的に抑制した。抗CD3抗体あるいは抗TCR抗体による架橋化で細胞を刺激しその活性化を細胞内Ca濃度の増加で測定した。MOL171,MOL294を注入した場合は抗CD3抗体あるいは抗TCR抗体による刺激に対してT細胞内Ca濃度の増加が消失していたが,PHAによる刺激では細胞内Caは正常に有意の増加を示した。コントロール実験としてJurkatT細胞に血液より精製したマウスIgGを細胞内注入した場合は抗CD3抗体,抗TCR抗体,PHAいずれの刺激に対しても正常に反応した。これらの結果はTCR-CD3を介したT細胞活性化にLcKが必須であることを示した。JurkatT細胞がTCR-CD3を介して活性化されるとき種々のタンパク分子がチロシンリン酸化されるが,このうち100KDa(p100)の分子は未処置およびマウスIgG注入JurkatT細胞では抗CD3抗体刺激によりチロシンリン酸化されるが,抗LcK抗体注入JurkatT細胞ではp100は抗CD3抗体刺激によるチロシンリン酸化が生じなかった。このことはp100はTcR-CD3を介したT細胞活性化の際にLcKによりチロシンリン酸化される標的分子であることを示唆する。T細胞が活性化されるとTcR-CD3分子群とCD4分子が集合し一塊となるがこの反応は活性化刺激を細胞内に伝えるための重要なステップと予想されている。抗LcK抗体を注入したJurkatT細胞でも同様の現象が認められることよりTcR-CD3-CD4の集合にはLcKのチロシンキナーゼ活性は関与していないと考えられた。
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