研究概要 |
1.カドミウムの長期経口暴露による健康影響を明らかにするために,昨年度に引き続きカドミウム汚染地域住民を対象に,尿細管障害に関する疫学調査を実施した.カドミウム汚染地域内の11集落に居住する46〜61歳の男性住民120名を対象に早朝尿を採取した.また比較のために,神通川水系以外の1集落の同年齢の男性31名を対照とした.回収数(回収率)はカドミウム汚染地=95名(79.1%),対照地域=26名(83.8%)であった.カドミウムによる腎障害の早期の指標である尿中低分子量タンパクとしてα1-マイクログロブリン(U-α1m)をEnzymeimmunoassay法により測定した.その結果カドミウム汚染地域住民のU-α1mは対照より有意に高かった.さらに尿細管上皮細胞由来の酸素N-アセチルグルコサミニダーゼ(NAG),総タンパク,アミノ窒素,カルシウムの尿中排泄も有意に増加していた.すなわちカドミウム汚染地域住民には近位尿細管機能障害が認められた.昨年実施した同地域の女性の結果と比較すると,高U-α1m(対照の95%信頼区間推定上限値:男11.8mg/g cr,女10.8mg/gcr)を示した例は男18例(18.9%),女13例(11.6%)であり,男により高頻度にみられた.その理由として男の汚染地域居住年数44.0±16.8年は女の35.1±13.8年に比較し長く,したがってカドミウム暴露量も多いためと考えられた。尿カルシウム排泄の有意な増加は骨量の低下を引き起こすことから,この年代においても骨影響についての評価が必要であると考えられた。 2.米由来のカドミウム暴露の指標として,血液および尿中カドミウムの意義を明らかにするために,富山県神通川流域カドミウム汚染地域の女性住民73例を対象に血液,尿ならびに自家米中カドミウム濃度を測定し,相互の関連について検討した.その結果血液中カドミウムは4.4〜30.2ng/ml(平均10.9ng/ml)と対照の平均2.4ng/mlに比較し有意に高値であった.血液と尿中カドミウムとの間には有意な相関(r=0.494,p〈0.001)がみられた.しかし米中カドミウムとの間には血液,尿ともに相関はみられなかった.これは暴露の指標として米中カドミウム濃度を用いたがこれは個々の1日摂取量と必ずしも一致しないこと,血液中カドミウムは食物からの暴露を示すほかに体内のカドミウム代謝の影響を受けること,尿中カドミウムは尿細管障害の指標と良い相関がみられたことから腎障害に影響されていることなどが考えられた.したがってカドミウム汚染地域住民における米からのカドミウム暴露の評価に際しては,血液および尿中カドミウム値のみを用いることは妥当ではないと考えられた.
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