(1)野外調査:瀬戸内海沿岸でムラサキイガイ(以下イガイ)の採取と採水を行い、多核芳香族の存在量と変異原性活性を調べた。その結果、イガイ試料49群のうち8群に1ng/g以上のベンツピレン(以下BP)が検出され、サルモネラYG1024(+S9)を検出菌として用いると、32群中19群に溶媒対照の3倍以上の変異原性活性(以下陽性)が認められた。また、1gのブルーレーヨンを海水中に24時間懸垂した後に吸着回収された物質から、最高19.5ngのBPが検出され、29例中17例が陽性となった。BP濃度と変異原性活性の関係をみると、イガイでは相関係数(r)は0.706(N=32)、海水からの吸着 回収物でもr=0.603(N=28)となり、共に正の相関が認められた(P<0.001)。一方、水中のBP濃度および変異原性活性とイガイ中のそれらの間には相関が認められず、それぞれは異なったモニタリング手法であることが示された。また、多核芳香族の存在量と変異原性活性の季節変動については、水中・生物中共に明快な結果が得られなかった。 (2)室内実験:BP濃度を環境水に近似した濃度(TWAで0.058-0.224ng/ml)に保ち暴露実験を行った。ブルーレーヨン懸垂法のBaP回収能率を調べると、水流に大きく影響されるが、24時間後に平均15.7Lの試料水からの抽出に相当する量のBaPが回収された。この中でシジミを飼育すると、24時間以内最高濃度で6ng/g、水中濃度の11-38倍の濃縮が認められた。また飼育前の生物中にも飼育水中にも存在しなかった、蛍光物質が飼育後の生物中の出現したが、変異原性との関連は解明されなかった。 (3)変異原性分画について:イガイからの抽出物は海水からの回収物質に比べ、高極性物質の分画に変異原性活性が局在する傾向が認められた。すなわち、水生生物中の変異原性をモニタリングすることにより、環境水のそれとは異る毒性に関する知見が得られる可能性が示された。
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