研究概要 |
振動覚検査が有機溶剤による早期の末梢神経への影響を検出するのに有用であるか検討した。 FRP(fiberglass reinforced plastics)工程の7工場でのスチレン曝露作業者70名(男性64名、女性6名、平均年齢39.0±13.0歳、平均曝露年数7.8±7.7年)と、対照群として事務、配送、木材加工などに従事し有機溶剤を使用したことのないもの61名(男性52名、女性9名、平均年齢38.0±11.8歳)の振動覚を測定した。糖尿病の既往のあるものは、対象に含めなかった。振動覚の測定には振動覚計TM-31A(メデックインターナショナル社製)を用いた。本装置は、発信器、振幅安定回路、駆動回路、および駆動コイルのはたらきで振動体(金属製、長さ90mm、幅10mm、厚さ4mm)を125Hzで振動させ、振幅の直接値をデジタル表示する設計となっている。被検者の橈骨踝、脛骨踝に振動体の先端より約1.5cmの部位を水平にあてた。このような状態で振幅を一定速度(150mum/分)で漸増させていき、被験者が振動を感じた時点における振幅値を読み取った。測定は連続して5回繰り返し、最大値と最小値を棄印した3回の平均値をもってその被験者の振動覚値(VPT値)とした。 年齢とVPT値の間には有意な相関があった(上肢r=0.4,p<0.0001、下肢r=0.6,p<0.0001)。そのため年齢で層別化したところ、上肢では30代を除く年代で曝露群が対照群に比べ有意にVPT値が上昇していたが、下肢では50歳以上でのみ有意差があった。性、年齢、肥満度、身長、教育年数、アルコール摂取量、喫煙本数、曝露期間、尿中マンデル酸を説明変数として重回帰分析(stepwise,backward)を行った結果、上肢では年齢、曝露期間、尿中マンデル酸が、下肢では年齢とアルコール摂取量が有意な変数として残った。 以上より、振動覚は許容濃度付近のスチレン曝露でも影響を受けることが示されたが、有機溶剤による末梢神経障害は上肢より下肢が早期に侵されることとは合致しなかった。今後は、さらに被験者を増やすなどしてVPTが上昇する原因などについて検討していくつもりである。
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