臓器特異ABO式血液型物質の組織内分布と生合成に関する研究において、昨年度は、当教室で既に作製されていた唾液中ABO式血液型物質の臓器特異的エピトープを認識する単クローン抗体と、蛍光あるいは金コロイドで標識された二次抗体を用いて免疫組織化学的に染色されたヒト顎下腺標本を光学顕微鏡および電子顕微鏡下で観察した結果、本単クローン抗体は粘液細胞とのみ反応した。なお、本研究に用いた顎下腺は剖検時採取したものであり、ABO式血液型物質やその前駆体の細胞内分布を明瞭にすることはできなかった。また、他の霊長類や動物の粘液腺細胞とは勿論のこと、他のヒト組織とも反応しないことを認めた。 本年度の研究においては、さらにヒト胃粘膜ABO式血液型物質に対する多くの単クローン抗体を作製し、その中から胃腸上皮化生に特異的に反応する抗体を免疫組織化学的に見出した。本抗体は腸上皮化生のみに出現する糖鎖を認識し、この抗体の認識する糖鎖を担う糖タンパク上にABO式及びLewis式血液型活性糖鎖も担われていることを明らかにした。腸上皮化生においては、ABO式及びLe^b血液型活性が他の正常腺細胞に比べ減弱することが知られており、この腸上皮化生特異抗体が認識する糖鎖がABO式及びLewis式血液型活性糖鎖生合成過程における前駆物質あるいはその修飾を受けたものである可能性が高い。また、本抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより、分子量数百万の抗原糖タンパクを精製することが可能であることから、今後、大量の胃粘膜試料から抗原糖タンパク精製を行い、本抗体の認識する糖鎖の構造を明らかにし、本研究の当初の目的である組織におけるABO式血液型物質の生合成の過程を明確にしたいと考えている。
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