窒息死等の急性死体血が流動性であることはよく知られているが、急性アルコ-ル中毒等の死体の場合、経験的に血液に軟凝血を観察することがあり、この現象を解明する事が本実験の目的である。血液凝固・線溶・血小板機能に及ぼすアルコ-ルの影響、更にこれに加えて窒息死という現象が加わるとどのように変化するかを観察した。【方法】動物はゴ-ルデンハムスタ-(♂、10weeks)を使用し、実験群は次の4群とし、採血時抗凝固剤として1/10容3.8%クエン酸ナトリウムを加えた。1.コントロ-ル群:頸静脈より採血。2.アルコ-ル群:40%エタノ-ルを投与した後、1時間後頸静脈より採血。3.窒息群:針金にて頸部を絞め、窒息死させ、約1分後心臓から採血。4.アルコ-ルー窒息群:40%エタノ-ル投与後、窒息死させ約1分後心臓より採血。上記の4群の血液を検体として、次の項目について検討した。1.血小板凝集能、2.Thrombelastography(TEG)3.PT、APTT等の凝固時間、4.凝固・線溶因子活性。尚、ヒト血液にアルコ-ルをin vitroで作用させ、血小板の脂質組成をHPLCで分析した。【結果と考察】1.血小板凝集能は、アルコ-ル投与により著変はないが、最大凝集時からの解離率は低下した。また、窒息死後はアルコ-ル投与により、窒息死のみの場合に比較して凝集能低下の傾向が観察された。2.TEGはアルコ-ル投与により振幅は増大した状態が続いた。3.凝固時間APTTは、アルコ-ル投与により延長、窒息死においてもアルコ-ル投与により延長した。4.凝固・線溶因子活性はアルコ-ル投与によって前駆体は消費される傾向にあり、窒息死においても同様の影響が観察された。5.血小板の脂質組成に著変は観察されなかった。以上の結果から、アルコ-ル投与により、またアルコ-ル投与した後に窒息死した場合においても、凝固・線溶因子は活性化されることが明らかとなった。
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