青酸や一酸化炭素による中毒死体では血液は流動性を示す場合が多いとされ、一方一般に血液が流動性とされる急死においても、飲酒者の場合には軟凝血が観察される例があるなど、死因と血液の性状は密接な関連があると推測される。本研究は薬毒物中毒時における凝固・線溶系の変動を観察する為、特にアルコールと青酸カリウムを選択し行った。 【方法】動物はゴールデンハムスター(♂10-12weeks)を使用した。 1.アルコール投与実験:40%エタノールを10ml/体重Kgを投与し、1時間後に採血し、また投与後1時間で絞頚により窒息死させた群についても採血した。2.青酸カリウム投与実験:KCNの0.1%、0.15%、0.2%溶液を10ml/体重Kg投与し、10分経過観察し採血した。10分以内に死亡したものについては死亡直後に採血した。尚、採血時抗凝固剤として1/10容クエン酸ナトリウムを加え、次の項目について検討した。1.血小板凝集能、2.Thrombelastography(TEG)、3.凝固時間APTT、PT、4.凝固・線溶因子活性、【結果と考察】1.アルコール投与により凝固・線溶因子は消費され、それに伴い凝固時間APTTも延長し、凝固、線溶活性は活性化されることが明かとなり、この影響は窒息後も続いた。また、TEGの結果からアルコール摂取により強固な血栓形成が観察され、これらの結果は飲酒時の急性死体血に観察される軟凝血の出現を示唆するものと思われた。2.青酸中毒による影響は、比較的低濃度(0.1%)でトロンビン、X因子、XII因子が消費される傾向にあり、内因性凝固の活性化が観察されたが、線溶に関しては一定の傾向は認められなかった。低濃度投与群の死に至る経過が長い群では値がばらつく傾向にあった。すなわち、高濃度投与によるショック状態で死亡する場合と、低濃度で死亡が遷延した場合では異なると考えられ、青酸そのものの中毒による影響というよりも、死の機序に大きく左右されると思われた。
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