研究概要 |
前年度は,巣状糸球体硬化症や糖尿病性糸球体硬化症などの臨床例について糸球体硬化過程におけるマクロファージ浸潤と高脂血症に伴うその泡沫化を明らかにし,さらに実験的に,片腎摘出ラット・アミノヌクレオシド腎症にトライトンWR1339(TR)を投与した高脂血症モデルについて,糸球体硬化病変の形成と進展にマクロファージの泡沫化が重要な役割を果たしていることを明らかにした。今年度は,それにひき続いて,上述のTR投与高脂血症モデルにプロブコールとベザフィブレートの2種類の脂質代謝改善剤を投与し,高脂血症,腎組織障害に対する効果を検討した。その結果,プロブコールでは,十分量を投与しても血清コレステロール,トリグリセリド(TG)に対する効果はなく,また,その抗酸化作用にもかかわらず,尿蛋白量や糸球体硬化,泡沫細胞の出現頻度は改善しなかった。一方、ベザフィブレートを投与すると,血清コレステロールにはほとんど影響を及ぼさずに血清TGが有意に低下し,さらにTR投与による尿蛋白増加が抑制され,泡沫細胞の出現頻度と糸球体硬化の程度が著しく軽減した。TR投与による高脂血症はTGリッチリポ蛋白の増加が主体であり,脂質代謝改善剤投与の結果とも合せ,LDLの増加や変性よりも,TGリッチリポ蛋白の異常が糸球体硬化に関与していると考えられた。なお,糸球体のサイズの計測をあわせて行ったが,糸球体硬化と関連するサイズの変化は明らかではなかった。すなわち,この高脂血症による糸球体硬化過程における糸球体腫大促進因子の介在は否定的であった。以上,本研究により高脂血症による糸球体硬化過程におけるマクロファージの浸潤,泡沫化の重要性が確認されるとともに,粥状動脈硬化との類似性に鑑み提唱されているLDLの異常だけでなく,TGリッチリポ蛋白代謝異常も糸球体硬化の促進因子となりうることが示唆された。
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