骨粗鬆症の発現に関わる骨細胞間ネットワークの細胞生物学的研究及びその治療への応用

1993 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 03454217
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 松本 俊夫 東京大学, 医学部(分), 講師 (20157374)
• 研究分担者: 竹内 靖博 東京大学, 医学部(分), 助手 (50202164) ; 山下 直秀 東京大学, 医学部(分), 講師 (90174680)
• キーワード: 骨粗鬆症 / エストロゲン / 骨芽細胞 / 破骨細胞 / 骨形成 / 骨吸収 / 成長因子 / transforming growth factor-β

研究概要

骨粗鬆症の発現機序を明らかにし、予防・治療法を確立する目的で以下の検討を加えた。
1.骨芽細胞による骨吸収調節機構の解明:閉経後骨粗鬆症は骨吸収の亢進を主たる病態とし、estrogenの欠乏によりもたらされる。Estrogen受容体は骨芽細胞に存在し、破骨細胞による骨吸収は骨芽細胞を介して調節されることから、estrogenが骨芽細胞からの骨吸収調節因子の分泌に及ぼす影響について検討を加えた。その結果、estrogenが骨芽細胞からの骨吸収抑制因子の分泌を用量依存性に高め、副甲状腺ホルモンを始め、interleukin-1、活性型ビタミンDなど殆どの骨吸収促進因子の作用を抑制した。更にこの因子はheprin親和性を有し細胞表面に付着して存在すること、その活性は加熱およびtrypsinにより失活することなどから蛋白性の因子であること等が明らかとなった。この因子の同定が今後の重要な課題である。
2.骨芽細胞における成長因子の産生・作用の調節機構の解明:骨芽細胞が産生し、基質中に蓄積された後に骨吸収に伴い溶出される成長因子のうちtransforming growth factor(TGF)-βは骨基質蛋白の合成、骨形成の維持に重要な役割を果たすことから、その作用の調節機構について検討を加えた。骨芽細胞の長期培養により、基質蛋白の合成期を経て基質の石灰化期へとその細胞分化が進む。この各期において細胞膜TGF-β受容体の発現を検討したところ、基質合成期には多量のI型およびII型受容体が発現し、TGF-βに反応して増殖の抑制、proteoglycanやfibronectin合成の抑制が見られるのに対し、石灰期には何れの受容体の発現も著明に低下し、その作用の発現も抑制されることが明らかとなった。従って、骨芽細胞はその分化段階に応じてTGF-β反応性が変化し、これに伴い基質蛋白合成能なども変化することが明らかとなった。今後更に、分化に伴うどの様な変化がTGF-β受容体の発現に影響を及ぼすのかなどに関する検討を進める必要がある。

研究成果

• [文献書誌] Matsumoto,T.et al.: "Matrix proteins regulate the proliferation of osteoblastic cells by attecting the actions of IGF-I" Osteoporosis International. Suppl.1. S117-120 (1993)
• [文献書誌] Yamato,H.et al.: "Effect of 24R,25-dihydroxy vitamin D_3 on the formation and function of osteoblastic cells" Calcitied Tissue International. 52. 255-260 (1993)
• [文献書誌] Ishii,T.et al.: "Estrogen stimulates the elaboration of cell/matrix-associated inhibitory factor of osteoclastic bone resorption from osteoblastic cells" Biochemical and Biophysical Research Communicetions. 191. 495-502 (1993)
• [文献書誌] Takeuchi,Y.et al.: "Effects of transforming growth factor β1 and L-ascorbate on synthesis and distribution of proteoglycans in murine osteoblast-like cells" Journal of Bone and Mineral Research. 8. 823-830 (1993)
• [文献書誌] Yamashita,N.et al.: "Inhibition of inward rectifying K^+ current by external Ca^<2+> ions in freshly isolated rabbit osteoclasts" Journal of Physiology. (in press). (1994)
• [文献書誌] Oue,Y.et al.: "Effect of local injection of activin A on bone formation in newborn rats" Bone. 15(in press). (1994)
• [文献書誌] 福本誠二.松本俊夫: "Annual Review 内分泌・代謝.1994(分担)" 中外医学社, 287 (1994)
• [文献書誌] 松本俊夫(編集): "骨・カルシウム代謝の調節系と骨粗鬆症(臨床医のための実験医学シリーズ)" 羊土社(印刷中), (1994)