研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、多系統変性症(MSA)における嗜銀性封入体につき、生化学的分析、免疫細胞化学的研究を進めるとともに、病理組織学的研究にても進展がみられた。まず、生化学的分析では、ユビキチン化されていることを指標に本封入体を部分精製し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動にて検討した。約32KDと40KDのタンパクが、抗ユビキチン抗体と抗αBクリスタリン抗体の両者で認識され、ユビキチン化されたαBクリスタリンが本封入体の構成成分であることを初めて生化学的に示した(投稿中)。 免疫細胞化学的研究では、本封入体の形成・分解過程を明かにするために、non-lysosomal ubiquitin系のマーカーとして、ubiquitin,ubiquitin C-terminal hydrolase,20S-および26S-proteasome、またlysosomal系のマーカーとして各種cathepsinに対する特異抗体を用いた。その結果、本封入体は、ubiquitin系のいずれのマーカーでも強く認識され、それが主要な代謝系であることが判明した。また、このグリア細胞質内封入体と神経細胞死との関係を明かにする目的で、オリゴデンドログリアの関係する鉄代謝について検索したところ、MSAの大脳運動野では、対照には存在しなち3価鉄が存在することが明かとなった。さらに、本封入体は、鉄結合蛋白であるferritinおよびフリーラジカル・スキャベンジャーであるCu/Zn superoxide dismutase(SOD)に対する特異抗体にてもよく認識されることを初めて明かにし、本封入体が酸化ストレスを介して神経細胞死に関係している可能性を示した(投稿準備中)。 病理組織学的研究では、昨年報告したMSAの大脳運動野における新しい病変である層状のアストログリオーシスについての研究が出版され、さらに形態計測によりその原因と思われる小〜中型神経細胞の有意な減少を初めて明かにした(投稿準備中)。
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