アルツハイマー型老年痴呆脳の病理組織学的特徴は、大脳にびまん性に出現するアルツハイマー神経原線維変化(NFT)とアミロイド老人斑(SP)である。しかし、この両者は痴呆のない健常老人の脳(生理的老化脳)にも出現し、高齢になるほど両者の区別は不鮮明となる。そこで、アルツハイマー型老年痴呆脳(SDAT)と生理的老化脳におけるNFTとSPの出現の差を、その数と分布様式から明らかにすることを試みた。特に、SPについては大きさと形状が不定であるために、顕微鏡的判定には限界があるので、画像解析装置による半定量的解析を試みた。 対象は痴呆のない健常老人161例(年齢50歳代〜100歳代)とSDAT36例(70歳代〜100歳代)の剖検脳について、海馬を含む側頭葉のホルマリン固定・パラフィン包埋切片をtau蛋白とアミロイドβ蛋白について免疫組織化学的に染色し、まず顕微鏡学的観察によって次のような結果を得た。 1)NFTは、生理的老化脳においても海馬と海馬傍回に多数出現するが、新皮質にはほとんど出現しない。一方、アルツハイマー型老年痴呆では新皮質にも相当数出現する。 2)SPは、アルツハイマー型老年痴呆ではびまん性に多数出現するのに対して、生理的老化脳では多数出現するものから全く出現しないものまで差があった。 3)海馬はNFTの好発部位であるがSPは出現しにくく、逆に新皮質はSPの好発部位であるがNFTは出現しにくかった。 この観察所見を画像処理システムを用いて定量化することが、本研究の最終目標であるが、画像取り込みとその計測処理の技術的問題のため、研究はなお進行中である。研究対象症例はほぼ集積できているので、この点を解決することによって、研究目的は達成できる。
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