研究概要 |
我々の教室では、雑種成犬に対して慢性の高頻拍刺激を加えることにより、ヒトの臨床病態に類似した心不全モデルの作製に成功している。同モデルの心筋には細胞壊死がなく,刺激の中断により不全状態が正常化することは、収縮性の低下が心筋細胞の量ではなく、質的変化に基づいていることを示唆している。本研究はこの心不全モデルにおける心筋力学特性の変化を説明する細胞下メカニズムを究明するため,同モデルの心筋標本をin vitroで多角的に解析しようとするものである。雑種成犬を用いた慢性不全心モデルは,現在,ほとんど失敗なく,再現性よく作製されている。その過程に必要な,人員・技術・備品の設定は,平成3年度において完了された。同モデルの左室圧一容積関係の解析より、急速流入期における左室弛緩は著しく障害されており、しかもその障害は前負荷に依存していることが明らかになった。このような特性は,対照犬にては認められず,本モデルに特異的である。心不全の心室より得られた心筋切片においては,活動電位時間が延長しており,かつ,潅流容液中のカルシウム濃度を上げることにより,対照と異なり弛緩時間が延長することが判明した。また不全心筋では細胞内カルシウムトランジェントの時間経過も延長しており,同様の細胞外カルシウム濃度上昇によって,その傾向は増大した。これらの所見は,血行力学的に明らかとなった心不全左室の弛緩障害の少くとも一部は,細胞内カルシウム動態の異常で説明しうる可能性を示唆している。本モデルより単離心筋細胞を得る技術に関しては,現在その予備実験を行っている。
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