研究概要 |
酸化LDLの内皮細胞毒性はその粥状硬化原性として最も重要な性質である。培養内皮細胞をあらかじめα-トコフェロールや抗酸化性を有する抗高脂血症剤プロブコールで前処理することによって酸化LDLの毒性を防止できる。銅イオンによるLDLの酸化的変性過程でチオバルビツール酸反応物質(TBARS)と脂質ヒドロパーオキサイド(LPO,MCDP法)が増加する。TBARSはLDL粒子中ばかりではなく水相にも分布するが、LPOはLDL粒子中のみに存在する。LDLと培養することによって銅イオンはリポ蛋白粒子に結合して複合体を形成する。LDLの酸化的変性に伴う内皮細胞毒性はLDL粒子の蛋白部分に結合して存在し、水相には細胞毒性を認めない。酸化LDLをEDTAで透析すると、結合している銅イオンは離れて酸化LDLの毒性は消失する。そこへ再度銅イオンを添加すると酸化LDLの毒性が復活する。LDL酸化の時間経過をみると酸化LDLの細胞毒性はLPOに依存しており、TBARS,陰性荷電,アルデヒドとは相関しない。したがって,酸化LDLの細胞毒性発揮には銅イオンが必要であり、酸化LDL粒子中のLPOが銅イオンの存在下に、おそらくペルオキシあるいはアルコキシラジカルとなって毒性を示すと考えられる。LDLの酸化過程で形成されるリゾレシチンが細胞毒性の原因である可能性は否定された。酸化LDLやt-ブチルビドロパーオキサイドの内皮障害は3-4時間の潜時の後進行性に経過するが、リゾレシチンの細胞毒性は明らかな潜時なく生じ,1-2時間後には進行が停止する。また,酸化LDLは内皮依存性血管弛緩反応(EDR)を抑制するが、その機序にも同様な可能性が考えられた。即ち,酸化LDLによるEDRの抑制は、TBARSには依存せず、リポ蛋白部分に結合しているLPOおよび銅イオンが関与していることが示された。
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