我々がイミプラミン特異結合部位(5ーHT transporter)の精製を図っている間に、遺伝子間で保存性の高いことが予想されるGABA transporterに対するcDNAのクロ-ニングおよびその発現実験結果の発表が行なわれた。方法論的に、stringencyをさげたprobeを用いてのcDNAクロ-ニングがすぐさま世界で進行する、あるいはすでに進行中であることは明白であると我々は考えた。この予想は正しく、その半年後即ち我々も同様の方法で実験を試みている間に5ーHT transporterに対するcDNAクロ-ニングおよびその発現実験結果の発表がNatureあるいはScience誌に相次いで行なわれた。我々は計画を一部変更し、新たな神経伝達機構の解析に着手した。最近になって血管内皮由来血管弛緩因子が一酸化窒素であることがわかり、生体各所でのシグナル伝達因子としての一酸化窒素の役割が明らかになってきている。神経系でも2種の興奮性アミノ酸受容体がその伝達因子として一酸化窒素を用いていることが明らかにされ、また海馬錐体細胞の長期増強現象や小脳皮質での長期抑圧現象が一酸化窒素によって引き起こされることが昨年になって報告され、一酸化窒素のシグナル伝達因子としての機能がおおいに注目されている。さて、この一酸化窒素を生体内で合成する一酸化窒素合成酵素がin vitroでメチルアルギニンで強く阻害を受けることは多くの研究者によって明らかにされているが、遊離型メチルアルギニンが生体内に存在するか否かは未知であった。今回我々は、一酸化窒素合成酵素の活性制御に重要であると考えられる3種の遊離型メチルアルギニンをウシ脳から単離し同定した(J.Neurochem.in press)。またこれらの3種の遊離型メチルアルギニンを高感度に測定する方法を開発し、哺乳動物の各組織での分布を明らかにした(投稿中)。現在一酸化窒素による脳神経系の伝達機構の調節機構の解明に着手している。
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