アルツハイマー病の脳では、アルツハイマーの神経原線維変化をきたした神経細胞は壊死に陥るので、原線維変化の成立ちを知ることは逆に神経細胞の壊死の発生機序を知る上で重要であると考えられる。我々は、神経原線維変化が世界中の研究者にPHF(paried hellical filament)であると信じられてきたものが誤りで、実際には直経3.5nmの球状のsubunitから成る8本のproto-filamentが捻れてできているtwisted tubuleであることを証明してきた。本年度は、未だ解明されていない神経細胞内での原線維変化の形成の部位を検索する目的で、電顕的にアルツハイマー病脳の多数のエポン包埋切片を詳細に観察して、原線維変化を構成するtwisted tubuleが粗面小胞体と連続している像を観察することができた。粗面小胞体が原線維変化の形成されることを証明したのは我々が最初である。また、胞体内で多量の原線維変化を含む神経細胞でも、殆どの線維は粗面小胞体とは形態学的に直接の結合は見られず成熟したもので、形成途中であると考えられるものはごく僅かであった。このことは、神経限線維は神経細胞の中で緩除に少量づつ連続して形成されると考えるよりは、比較的短時間の内に多くの線維がまとめて作られる事を示唆している可能性がある。 また、我々はアルツハイマー病脳の微小血管の病変について以下の知見を得た。アルツハイマー病の大脳皮質を超音波で処理して血管を分離し、光学顕微鏡で観察した。その結果、毛細血管の不規則な狭窄、内皮細胞の変性を証明した。血管を分離して観察する方法は、光顕や電顕を用いて組織切片を観察する方法に比較して、3次元の情報を得ることができる点で有利である。この方法で、アルツハイマー病では微小循環に障害があることを証明し、臨床的に証明されているアルツハイマー病の循環減少を形態学的に裏付けることができた。
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