研究概要 |
最終年度にあたる本年では、過去二年の研究において得られたD4受容体に対する合成ペプチド抗体を活用して、精神分裂病患者の剖検脳を免疫組織化学的に検索した。またD4受容体遺伝子の多型がヒトにおいて存在することが報告されたので、この多型が分裂病患者群の対象群とで異なるかどうかを、ただちにサザンブッロト法およびPCR法で解析した。 先行実験で得た至適免疫染色条件(ヒト脳切片のオートクレーブ処理など)を活用し、以下の二群の剖検脳の海馬をD4受容体抗体をもちいて免疫染色した。分裂病群は都立松沢病院検査科で解剖された患者脳で、これらの症例はDSM-III-R基準に従って精神分裂病と診断されたものである。対象としては分裂病群と年齢をマッチさせた正常群をもちいた。フオルマリン固定・パラフィン包埋の脳材料から海馬部分を選択し、薄切し、脱パラフィン後、抗D4受容体抗体をもちいてABC法により、免疫染色をおこなった。この抗体は海馬終板の神経細胞およびその樹状突起起始部をそれぞれ縁どるように免疫染色した。ラット脳をもちいた先行の研究からこの輪郭状の染色はシナップス前部を染色しているものと推定された。分裂病群と対象群とを詳細に比較検討したが、その染色の強度や分布については大きな差異をみとめることができなかった。 つぎにD4受容体遺伝子の多型(2,3,4,5,6,7繰り返し配列)の差異を分裂病群と対象群とで検索した。当初は放射線アイソトープをもちいたサザンブロット法で検索したが、その検索には種々の障害がともなうため、アイソトープをもちいないで検索するPCR法を独自に開発した。これにより多検体を容易にしかも安全に検索できるようになった。この方法で分裂病患者(80名)と対照者(81名)をしらべたところ、統計的に多型(繰り返し配列の頻度)の差異はみとめられなかった。
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