精神分裂病の脳の中でドーパミン受容体サブタイプがどのように変化しているのかどうかを、これらの受容体に特異的な合成ペプチド抗体を作製して、免疫組織化学的に検索し、以下の結果をえた。 1)ドーパミン受容体亜型に対するウサギ抗合成ペプチド抗体の作製 本研究ではD2、D3、D4各受容体に対する抗体を作製することができた。これらの抗体はELISA法で高い抗体価を示し、また特異性が確認された。 2)各種抗ドーパミン受容体抗体によるラット脳の免疫組織化学 これらの合成ペプチド抗体が免疫組織化学的検索に活用できるかどうかをラット脳組織で確かめた。この結果、抗D2抗体、抗D4抗体はブアン固定のラット脳組織をよく染めだした。D2受容体免疫原性は嗅球、大脳皮質、線条体、黒質にみとめられた。抗D4受容体免疫原性は大脳皮質、海馬、線条体、視床、黒質などにみとめられた。 3)精神分裂病患者剖検脳の海馬のドーパミン受容体D4の局在・分布に関する免疫組織化学的検索 9例の精神分裂病剖検脳の海馬を対象にしらべた。抗D4受容体抗体により海馬終板の神経細胞およびその樹状突起起始部の周囲が強陽性に染色された。また錐体細胞の樹状突起の周囲も同様に強く染色された。この所見はラット脳でみられた所見と類似していた。抗シナプトフィジン抗体と組み合わせた二重染色を行ったところ、D4受容体免疫原性はシナプトフィンジン免疫原性と一致したため、D4受容体はシナプス前部に局在することが示唆された。抗D4受容体抗体による免疫染色の局在・分布・強度などを、分裂病脳と対照脳とで詳細に検索したが、両者のあいだに質的・量的な差異は認めることができなかった。
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