研究概要 |
うつ病においてしばしば視床下部-下垂体-副腎皮質系機能亢進とセロトニン受容体-細胞内情報伝達系機能異常とが見い出されているので両者の関連を検索した。10日間のACTH処置やコルチコステロン処置ならびにグルココルチコイド受容体に選択的に作用するデキサメサゾン処置はラット大脳皮質の5-HT-2受容体密度を増加させ,グルココルチコイド受容体の持続的刺激が核内の情報処理機構を介して5-HT-2受容体機能に影響する可能性を示唆している。細胞レベルでこの可能性を検討するため,6〜48時間デキサメサゾンをC6グリオーマ細胞の培養液に添加したところ,5-HT-2受容体刺激性のCaイオン動員系を亢進させることを明らかにしたが,一方,6〜48時間のデキサメサゾン処置は5-HT-2受容体のmRNA発現量を有意に低下させた。したがって,デキサメサゾン急性処置時の5-HT-2受容体機能亢進は受容体以降の機能,とりわけGTP結合タンパク質の機能亢進に基づく機序が考えられる。 うつ病における視床下部-下垂体-副腎皮質系機能亢進とアミノ受容体-細胞内情報伝達系機能異常とを動物に再現し,うつ病態の分子生化学的検討を行うことを目標に,新生児期に母仔分離ストレス,胎生期にクラウディングストレスを負荷した。その結果,新生児期の母子分離ストレスは,成熟後に調べると,ストレス負荷による血中コルチコステロン分泌に対するデキサメサゾンの抑制能を増強させ,一方,胎生期のクラウディングストレスは,成熟後のストレス負荷による血中コルチコステロン分泌に対するデキサメサゾンの抑制能を低下させ,しかも,大脳皮質の5-HT-2受容体密度を増加させることを明らかにした。
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