研究概要 |
癌細胞に対する温熱療法は第5の癌治療として注目をあびてはいるが,現在の方法は外部より熱を加える受身的・消極的温熱療法である。新しい積極的な温熱療法として,デキストラン複合磁性体を開発し,これを用いた細胞内加温を提唱し報告してきた。デキストラン複合磁性体は,生体親和性多糖デキストランと磁性酸化鉄との超微粒子複合体である。今回の目的はデキストラン複合磁性体を用いて,細胞内加温法において示された顕著な効果を基に,実際の臨床応用への可能性をはかることであった。前年度は,臨床における誘導温熱療法では高出力装置と細かい温度設定が必要であるため,加温装置の改良と統合型コントロールのためのコンピューター・プログラミングを行った。家兎VX-2腫瘍を用いて腸管,膀胱,肝腫瘍モデルを考案し、実際に加温を行い良好に加温された。またデキストラン複合磁性体と抗癌剤の結合については薬剤の活性の低下の問題点を残していた。 今年度の研究では,臨床応用に先立ち,以下の実験を行った。 1.ニュージーランド白色家兎VX-2腫瘍を用して腸管,膀胱,肝腫瘍モデルを作製し,これに対しデキストラン複合磁性体を用いたバルーン法,腔内注入法,直接注入法により実際に腫瘍の治療を行い,その治療効果について検討を行った。その結果,膀胱,肝腫瘍モデルの加温群において,腫瘍の消失・縮小は認めなかったものの腫瘍の増大抑制効果が認められた。 2.デキストラン複合磁性体と抗癌剤の結合については薬剤の活性の低下の問題点を有しているため,BALB/CマウスのMeth-A腫瘍細胞を用いて,デキストラン複合磁性体による温熱効果と抗癌剤の併用による治療効果を検討した。その結果,温熱・抗癌体併用群において温熱単独群,無治療群と比較してBALB/Cマウスの生存期間の延長を認め,併用効果の有用性が認められた。 これらの結果については,6th International Congress on Hyperthermic Oncologyおよび第9回日本ハイパーサーミア学会において発表した。
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