研究概要 |
はじめに:臓器に於ける細胞群は、組織間液のなかに浮かんで、生命活動を営んでいるが、電気的には、謂わゆる生物学的、電気的閉鎖回路と見なすことが出来る。血液と組織間液との関係も選択的電気的移送系と考え、臓器に於ける生命活動も電気化学的に捕らえる事が可能である。局所に於ける各種代謝化学反応も外から電流を流すことにより、組織の化学反応をコントロ-ルする事が可能であろう。幾多の実験並びに臨床研究により、損傷を受けた組織の治癒を早める効果が、証明されている。癌細胞、癌組織は代謝速度も正常組織に比して早く、通電の条件を色々と変えてみる事により、癌組織に損傷を与え正常組織には、それ程副作用の無い条件設定が、可能であろうと考え,腫瘍組織の通電療法を試みた。材料及び方法:雄の呑竜ラット生後8週間,体重300ー350gm14匹の腹部皮内に吉田肉腫1×10^6個の細胞を注射し,5日後直径約12mm程の固形腫瘍に成ったところで実験を始める。ペントバルビタ-ルによる全身麻酔下で白金の陽極電極を直接腫瘍内に入れ,陰極電極を腫瘍と約3ー3.5cm陽極から離れた皮下に入れ,両者の間に一定の直流電流を1時間/日,4日間連続に流す。3mA0.05Volt Group1(n=4),1mA0.02Volt Group2(n=4),0.05mA0.01Volt Group3(n=4),白金電極を挿入し,電流を流さない対照群(n=2)の4群に分け検討した。結果:Group2については,8日目から腫瘍が小さくなり始め,23日目には完全に消失した。他のGroupのものは何れも腫瘍は小さくならなかったが,生存日数に変化を認めた。対照群が平均12.5日に対し,Group1は14.5,Group3は17日,腫瘍縮小効果のあったGroup2では120日犠牲にするまで腫瘍の再発を見ず生存し続けた。まとめ:直流電流を流すことにより腫瘍を消失させる効果があることは証明できた。今後さらにそのメカニズムや最良の治療条件を見出すため反復して実験する必要がある。
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