本研究は、重症の細菌感染症から生じた敗血症に起因する多臓器不全症(septicーMOF)の病態解明を、生体感染防御機構の第一線に位置する好中球の機能変化を通して明らかにするために企画された。 まず好中球の血管内皮への接着の変化を、培養ヒト血管内皮細胞を用いた好中球ー内皮細胞接着試験にて検討した。その結果、患者好中球は正常好中球と比較して著しい内皮細胞への接着能の増大を認め、また同時に好中球表面の細胞接着因子CD11b/CD18、CD11c/CD18の有意な増加を認めた。次に患者好中球が感染巣へ遊走してゆく能力をBoyden Chamber法にて測定。補体分解産物に対する遊走能の著明な低下を認め、患者好中球の活性化補体への遊走が、補体系持続活性化のため循環血中ですでにdeactivationの状態に陥っていることが示された。さらに化学発光能による活性酸素の産生能や、Fishman変法による顆粒酵素放出能の検討の結果、患者好中球はこれらToxic Chemical Mediatorを多量に産生・放出していた。 以上の結果は、接着能増大と遊走能の低下とによって感染巣から離れた遠隔の血管内皮細胞上に好中球が留まってしまう事、またこれら好中球が本来細菌など異物を殺傷・消化するために産生・放出する各種chemical mediatorを血管内皮細胞上で放出してこれを損傷し臓器不全を引き起こしてる事を示唆している。さらにこれら好中球の機能変化には活性化された補体系が密接に関連している可能性が示唆された。今後一層septicーMOF病態における好中球機能変化と補体系活性化との関連を試み、各種Biological Response Modifierによる好中球遊走能低下の改善や、補体活性化制御による治療の可能性の検討を行い、今だ死亡率の高い本症の治療法を確立したい。
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