研究概要 |
本研究は、重症の細菌感染症から生じた敗血症に起因する多臓器不全症(septic-MOF)の病態解明を、生体感染防御機構の第一線に位置する好中球と補体系の機能変化を通し解明する目的で企画した。 好中球の血管内皮細胞への接着の変化を培養ヒト血管内皮細胞を用いた好中球-内皮細胞接着試験にて検討すると、患者好中球は正常好中球と比較して著しく内皮細胞への接着の増大を認め、同時に好中球表面の細胞接着因子CR3,CR4の有意な増加を認めた。次に患者好中球が感染巣に遊走してゆく能力を測定すると、補体分解産物(C5a)に対する遊走能の著明な低下を認めた。更にこの好中球はCR3を介した反応である活性酸素やLysosome酸素を多量に放出していることが解った。 以上の結果は、接着能増大と遊走能の低下によって感染巣から離れた遠隔の血管内皮細胞上に好中球が留まってしまうこと、またこれら好中球が本来細菌などの異物を殺傷、消化するために産生、放出する各種のchemical mediatorを血管内皮細胞上ですでに放出しこれを損傷し臓器不全を引き起こしていることを示唆している。さらにこの好中球の機能変化には補体活性化が強く関与していることが示唆された。 そこで実際に敗血症患者における補体系活性化の有無を検討すると、CH50,C4の低下、C3a,C4aの増加を認め補体活性化が示された。さらに補体最終産物で強い膜傷害性を有するC5b-9複合体(MAC)の増加もみられ、補体自体による組織傷害性も示したが、好中球は膜表面で補体制御因子の発現量を増しており、MACによる破壊から自身を守り、その組織傷害性を維持していた。更にこの補体活性化経路は古典的経路を介することも明らかとなり、MOFの治療を目指す上で大きな足がかりになるであろう。 今後はMOFにおける生体防御機構の傷害過程を解明しながら重症感染症からMOFへの予知、予防、そして有効な治療法の確立を目指していきたい。
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