本年度は、ヒト・ヒルシュスプルング病と同様の病態を有するとされるミュータントモデルマウス(lethal spotting;ls)を用いて胎仔の発生期消化管神経叢に於けるNCAM及びL1分子等の神経系関連因子の発現過程と細胞外環境の相関に重点を設定し、また相当するヒト・ヒルシュスプルング病ならびに同類縁疾患の病態を 消化管神経叢における神経発生と形態異常を中心に検討し臨床的意義を含め考察した。 胎生第10日より16日目にて妊娠マウスより胎仔を採取し、マイクロウエーブ固定後パラフィン包埋し組織切片を作成した。抗NCAM抗体、抗L1分子抗体、抗ニューロフィラメント抗体、抗PCNA 抗体等を用いて免疫組織化学的染色を行った。神経系関連因子に対する組織内の免疫反応性は、ミュータント、コントロール群とも11日目には十二指腸の領域にあり、12日目での観察ではコントロール群で免疫反応性が十二指腸を過ぎてさらに十二指腸・空腸ループ内へ進行していたが、ミュータント胎仔では十二指腸近位部にとどまっていた。この間、神経堤細胞の表面には分裂期(S期)細胞に特異的に発現するPCNAが高頻度に認められたが同時に細胞遊走経路を提供する消化管原基の間質を構成する細胞群にも同様の反応が観察された。一方、ミュータントでは遊走経路を構成する細胞群には反応が認められなかった。以上の結果より本実験系における観察により先天性無神経節腸管の発生には、神経堤細胞の遊走経路を構成する細胞の分裂や増殖等に関する異常の存在することが初めて明らかになった。 消化管原基における神経系因子の発現過程をまとめ発表(京都府医大雑誌1993後述)、またこれらの発達異常を臨床疾患群(ヒルシュスプルング病類縁疾患)との相関において検討(J.Pediatr surg1993後述)、さらに細胞間コミュニケーションに関する論文を準備中である。
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