研究概要 |
1)我々は乳化剤のリン脂質を変えることにより,生体応用可能な画期的な粒子径の小さい,安定性のよい新脂肪乳剤の開発に成功したうえで,リン脂質と中性脂肪をトリチウムで別々にラベルして,新組成脂肪乳剤の体内動態をオートラジオグラフィーで測定した。その結果,我々が応用したphosphatidyl glycerolは肝,肺によく取り込まれ,血中に蓄積しないこと,また,リン脂質を変えると脂肪粒子の臓器指向性が大きく変化することも見出した。また,我々が独自に開発した脂肪粒子の固定法を用いて,電顕的に肝における脂肪粒子の取り込み像および代謝像を観察すると,新組成脂肪乳剤は従来のものに比べて速やかに肝に取り込まれ,代謝されることが判明した。 2)肝に取り込まれたリン脂質の代謝過程はいまだ殆ど解明されておらず,血中・肝組織とならんでリン脂質の排泄路としての胆汁中のリン脂質組成の分析・定量が必要である。我々は昨年度までにリン脂質クラスの分離・定量用の新しいHPLCシステムを考案したが,基線の変動幅が大きく,分離不十分であったため,分離条件を再検討した。カラムの長さを当初の125mmから250mmに変更し,グリセロリン酸の酸化反応液をIM酢酸溶液からpH=5.50の2M酢酸アンモニウム緩衝液に変更したところ,良好な分離と安定性を得た。このシステムを用いて,胆汁中リン脂質を分離・定量し,胆石の有無や胆汁の採取時期によってphosphatidyl choline以外の微量なリン脂質が変化することを見出し,胆石の成因にも関与している可能性が示唆された。また,胆汁からのリン脂質の抽出法も検討し,本システムでは中性脂肪も胆汁酸も分析に全く影響せず,総脂質を抽出した段階で分析可能であることを見出した。さらに脂肪乳剤投与時の血中・肝組織中・胆汁中のリン脂質クラスの変化を測定し,新組成脂肪乳剤の代謝と有用性を検討中である。
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